＜畑中清詞＞
第13代WBC世界Ｊ・フェザー級王者


平成３年６月、WBC世界ジュニアフェザー級タイトルマッチ。
初防衛戦。その１２ラウンド計３６分間は、畑中清詞の半生そのもののようであった。
第１ラウンドから責め続け、第４ラウンドまで右ストレートの強打・猛攻を繰り返し
王者の防衛が確実かのように思える「彼のボクシング」が続いた。
しかし、第５ラウンド、劣勢の挑戦者サラゴサが放った大振りの左フックが右眼にあたった。
致命的だった。
視覚が正常でないまま集中打を浴び、鮮血が噴出し真っ赤にリングが染まっていった。
－いま寝ちまえば楽になる、倒れてしまおう－

”ええか、おまえら、後悔したらあかん、十年後、二十年後に、
ボクシングをやっとってよかったと思えるように、後悔せん未来のために、
いま、頑張るんよ、どんなに辛くても、どんなに苦しくても、いま、頑張るんよ”
～ 「魂の箱　あるボクシングジムの闘い」より引用 ～

　倒れてしまおうと思うたび自らの声が耳の奥から聞こえてきた。
彼は立ち続けた。驚くべき意志力で苦痛から逃れようとする本能を抑制し、立ち続けた。
そして、立ったまま、試合は終わった。